『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021) ネタバレ感想|歴史に残るスパイダーマン映画の集大成

解説・感想
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作品情報

制作年2021年
制作国アメリカ
監督ジョン・ワッツ
出演トム・ホランド
ベネディクト・カンバーバッチ
ゼンデイヤ
上映時間148分

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あらすじ

ピーターがスパイダーマンだという記憶を世界から消す為に、危険な呪文を唱えたドクター・ストレンジ。
その結果、このユニバースに、ドック・オク、グリーン・ゴブリン、エレクトロ、サンドマン、リザードといった強敵たちを呼び寄せてしまう。マルチバースが現実のものとなってしまったのだ。
彼らがこのユニバースに同時に存在することだけでも既に危険な状況に。
ストレンジは、ピーター、MJ、ネッドに協力を求め、彼らを各々のユニバースに戻そうと試みるが、次々とスパイダーマンに襲い掛かるヴィラン達。その脅威は、恋人のMJ、親友のネッド、さらにはメイ叔母さんにまで。
最大の危機に晒された、ピーター。このユニバースを守り、愛する人達を守る為に、彼に
突き付けられる<選択>とは――
(公式サイトより抜粋)

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待ちに待ったスパイダーマンの最新作が公開されましたね。

マーベル・シネマティック・ユニバース第27作品目、マーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)フェーズ4においては9作品目に当たる本作。
ドラマシリーズロキあたりから本格的に描かれ始めた「マルチバース」の概念がついに劇場長編映画でも登場です。

MCUのフェーズ4では、すでにインフィニティ・サーガ後の物語を始めるための準備として、様々な新設定や新キャラクターの登場は進んでいますが、今後のストーリーで最も重要と思われるマルチバースの概念が、実際にMCUが別ユニバースとクロスオーバーする形で登場しました。

それに加え、本作はトム・ホランド演じるスパイダーマンシリーズ (“ホームシリーズ) に一区切りつける作品です。

MCU作品として、スパイダーマンシリーズとしても非常に重要な立ち位置となっている今作ですが、そのポジションにふさわしい一作となったのではないでしょうか。

感想 (ネタバレあり)

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良かったところ

ストーリーが単純

ストーリーがわかりやすかったのは良かったですね。
起きた出来事だけみると、「間違えて来てほしくない人たちが来ちゃったから帰ってもらった」
っていうだけですからね。
今作は登場するキャラクターが多いため、必要以上のミスリードや余計などんでん返しがあっては話がややこしくなるだけなので、この単純明快な話運びは正しいというか、必然的なものだったと思います。

大量のキャラクターをよくさばけていた

登場するキャラクターは本当に多かったですね。
そしてこの人たちみんな知ってるわっていう。

この「みんな知ってる」というのが大事で、各キャラクター(特に本作ではヴィランたち)の背景や出自の説明が最小限にしかされていないし、実際不要なんですよね。

なぜ不要かというと、観客はみんな過去のスパイダーマンシリーズを見てるからなわけで、作り手もそういうものだと思って映画を作れてしまうということです。
ここに、この「スパイダーマン映画」というシリーズの知名度がいかに巨大かをつくづく思い知らされますね。

スパイダーマンやヴィランたちの話は後述するとして、先に触れておきたい興奮ポイントは、やっぱりマット・マードックさんの登場でしょう。

デアデビル/マット・マードックの登場

Netflix制作のドラマシリーズデアデビルより、チャーリー・コックス演じるデアデビル/マット・マードックが登場しました
ただ、Netflix制作のデアデビルがMCUに合流するというのはすでに公式に発表済であったし、一足先にDisney+オリジナルシリーズホークアイヴィンセント・ドノフリオ演じるキングピン/ウィルソン・フィスクが登場したため、衝撃度合いでいうとやや弱くなってしまった感は否めませんでしたが、劇場でこのクロスオーバーを目の当たりにするのはやっぱり上がってしまいますね…
ただクロスオーバーといっても、「完全にただ顔見せの挨拶」として登場しただけでしたが。

ともかく、本作では弁護士マット・マードックとしての登場のみでしたが、すでに只者ではない片鱗を垣間見せていました。
彼が今後スパイダーマンと、MCUとどう絡んでいくのか期待したいところです。
…ただ「ヴェノムの件」を考えると期待しすぎはよくない気もする。

スパイダーマンというヒーロー

本作ではスパイダーマン映画史上初、「全世界に素性が暴かれる」という事態が起きます。
今までのスパイダーマンというと、スパイダーマンとしての生活とピーター・パーカーとしての生活との板挟みに苦労し、ピーター・パーカーとしての生活も大事にしたいのにスパイダーマンがそうさせてくれないといった悩みが多かったかと思います。

それが今回、スパイダーマンというアイデンティティとピーター・パーカーというアイデンティティが同一化された時、彼の人生は一気に狂いだします
さらに、スパイダーマンとピーター・パーカーの二重生活中にはあまり気付いていなかった、彼の中の大きな問題が浮き彫りになります。

それは、「思っていた以上に自分がスパイダーマンというアイデンティティとその力に魅了され、依存していた」ということです。

極めて象徴的だったのは、人々の記憶を消してほしいとお願いしに来たピーターがドクター・ストレンジに説教されるところです。
ピーター本人のせいで恋人と親友が大学へ進学できなくなったという問題を解決するため、真っ先に自分の元へ来たピーターに対し、ストレンジは「大学へ連絡を取って嘆願したのか」と圧倒的な常識に基づく説教をします。

ピーターは「言われてみれば確かに」という風に返しますが、この時ピーターはもはや一般的な常識の感覚を失い、ピーター・パーカーとしての生活に起きた問題をスパイダーマンの力で解決しようとしてしまっているのです。
スパイダーマンとピーターパーカーが同一化された結果、スパイダーマンとしてのアイデンティティに飲まれていってしまっています。

まあ実際、宇宙をまたにかけてあごのでかい紫色のおじさんと死闘を繰り広げて世界を救っていたらそうなるのはしゃーない、とも言いたい。

スパイダーマンはヒーローとしては強いが人としては未熟

スパイダーマンというヒーローは、持っている能力、力は相当なものなんですが、人としてはまだ未熟なただの青年です。
自分の意志と関係なく強大な力を手に入れてしまったばっかりに、まだその力を制御しきれるだけの内面が育っていないといいますか。

だから深く考えずに突っ走っちゃったり、欲張ったりしていっぱい失敗してしまいます。
スパイダーマンはスーパーヒーローなのでその失敗が巻き起こす騒動が大変なのですが、失敗してしまう原因やピーターの気持ちという面では、スーパーヒーローとは思えないほど我々に近いものなのでやっぱりみんな嫌いになれないし、応援してしまうんですよね。

そんな感じでいっぱい失敗しちゃう彼ですが、それらの失敗からちゃんと学んで成長するというのがスパイダーマンというヒーロー最大の魅力ではないでしょうか。

本作のスパイダーマンが背負う失敗

予告編やあらすじで分かっているとおり、本作でもピーターは大失敗をしでかすわけですが、本作でピーターが背負うことになる失敗はわけが違います。
ここが本作の一番大事なポイントというか、私が一番感動した点です。

それは、本作でピーターがやってしまった失敗だけでなく他ユニバース、つまり「過去のスパイダーマンシリーズの失敗(は言い過ぎなので問題点?)、ひいてはその映画の作り手たちの問題をも背負い、乗り越えてみせる」という点です。

MCUへやってきてしまったヴィランたちを元ユニバースに帰すとその後死ぬということが分かると、ストレンジは「それが彼らの運命である」と切り捨ててしまいますが、ピーターは「死なせずに解決できるはず」と信じて行動に移します。

本作では、ただのファンサービス的に過去作のキャラクターを登場させただけではなくて、ヴィランたちを殺すことはなかったんじゃないかという批判的な目線を持って過去作をクロスオーバーさせています。

また、過去作に対する批判的な目線というのも、当時のスパイダーマンたちや映画の作り手たちを非難するというわけではなく、当時は当時として、今回は救える手段ができたんだから救おうよ、というスタンスだったのも非常に良かったのではないかと思います。

過去シリーズキャラの扱い

スパイダーマンたちのサプライズ登場

本作一番のサプライズは何と言っても過去のスパイダーマンたちが集結したところでしょう。
ネッドが開いたポータルの奥にスパイダーマンらしき人影。
こちらに手を振ってくるが、振り方がどうもトム・ホランドっぽくない。
しかもなんかちょっと背高くない?と思っていると、こちらに向かって走ってくるスパイダーマン
そしてマスクを脱いだらなんとアンドリュー・ガーフィールドではありませんか。

私は公開日当日に都内某所の映画館で観ていたのですが、このシーンばかりはさすがの日本の観客たちから拍手と歓声が沸いていました
上映中に観客が沸いたのはアベンジャーズ/インフィニティ・ウォーの序盤、プロキシマミッドナイトが投げた槍をキャッチして暗がりからキャプテン・アメリカが登場したシーン、以来でした。
日本の観客はとても静かなので、こういうリアルタイムのリアクションがあると楽しいですよね。

このスパイダーマンたちの登場ですが、アンドリュー・ガーフィールドなんかは本作の製作中に目撃情報の噂なんかもありましたが、本人は出演を否定していました。
サプライズのために俳優たちが嘘をつくので記憶に新しいのは、スパイダーマン:ファー・フロム・ホームでミステリオを演じたジェイク・ギレンホールですね。
彼が映画公開前、メディアに対して「今回のミステリオはスパイダーマンと一緒に戦うヒーローなんだ」と嬉々として語っていた姿は最高でした。

アメイジング・スパイダーマン
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上に書いてしまいましたが、登場シーンがすごく良かったですね。
手の振り方だけで違和感を覚えさせたり、なんか身長でかくね?など、スパイダーマンの違いというより演じてる俳優の違いを活かして過去のスパイダーマンがやってきたということが表現されていました。

アメイジング・スパイダーマンはスパイダーマンシリーズの中では最も賛否が分かれてしまったシリーズかと思います。
公開当時から、アンドリュー・ガーフィールドの身長が高すぎるとか、ピーターとグウェンが必要以上に美男美女だ(エマ・ストーンだもんね)といった批判がされていました。
当時はまだスパイダーマンといえばサム・ライミ版のトビー・マグワイア演じるスパイダーマンのイメージしかなく、その上彼は圧倒的な童貞キャラだったため、アメイジング・スパイダーマンのピーターは「チャラついていていけ好かない」という評価が多かったと思います。

そんな失敗シリーズの烙印を押されがちなアメイジング・スパイダーマンですが、本作では失ってしまったグウェンの代わりにMJを助けたり、一応エレクトロと和解ができたり、かなりアメイジング・スパイダーマンシリーズ自体も救われる形になっていたと思います。
特にMJ救出シーンでは、アンドリュー・ガーフィールド力が発揮されていて非常に感動的なシーンでした。

サム・ライミ版スパイダーマン
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トビー・マグワイア演じるピーターはさすがの貫禄だったのではないでしょうか。
何しろ2002年公開のスパイダーマンという作品は、映画史的にも重要な作品だと思います。
アメコミ映画というものが子供向けではなく、大人の鑑賞にも耐えうるのだということを示したのはやはりリチャード・ドナースーパーマン(1978)や、ティム・バートンバットマン(1989)かと思いますが、2000年以降のアメコミ映画ブームから現在、「ブロックバスター映画の頂点」に至るようになるその始まりはこの2002年のスパイダーマンだと思います。

スパイダースーツを着たトビー・マグワイアが、スパイダーマン3から約15年ぶりにスクリーンに登場したことそれ自体で、MCUだけでなく2000年台以降のアメコミ映画の歴史を感じさせてくれる素晴らしい存在感でした。
彼が自分の過去を語るときや、グリーン・ゴブリンを殺しそうになるピーター(トム・ホランド)を止めたときのあの無言のシーンなんかは、ピーターとしての先輩、スパイダーマンとしての先輩っぷりが良く出ていました。

これはトム・ホランド演じるスパイダーマンの話になりますが、スパイダーマンがニューヨークの街をスウィングしていくシーンが本編のラストシーンでした。
このエンディングはスパイダーマン(2002)やスパイダーマン2(2004)、アメイジングスパイダーマン(2012)で行われている終わり方です。
このエンディングをMCUのスパイダーマン3部作のラストに持ってきたのは、「ソニー製スパイダーマン作品へのリスペクト」になりながら、「過去のシリーズ最終作のエンディングではこの終わり方をしていない」ことと対照になっていて、非常にきれいなまとまり方になっていたと思います。

ヴィランたち
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本作では、スパイダーマンの敵として立ちはだかるヴィランたちはすべて過去のスパイダーマンシリーズに登場したおなじみのヴィランたちです。
この設定で映画を作ることの利点は、「各キャラクターの説明がほとんど不要」ということです。
また、これらのキャラクターは本作で再登場するまでに長い年月が経っているため、彼らを知っている観客たちは自動的にこの時の流れ、歴史を感じ取ってしまい、キャラクターに厚みが増したように感じられます。(ずるい)

各キャラクターの説明が省けたということが、これだけのキャラクター数を出しておきながらストーリーラインを破綻させずに語りきれた要因でしょう。
このことはまた、各キャラクターの設定や背景は過去作で描かれてきた通りであるということでもあるので、余計な設定変更や追加をしていない過去作への良いリスペクトだと思います。

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ただ、リザードとサンドマンあたりはちょっと持て余してる感が否めなかったですね…
サンドマンとかいまいちどうしたかったのかがわからなかった気がします。

気になったところ

基本的に私は本作に対しては全肯定派ですが、気になったところがなかったわけではありませんでした。
以下にいくつか挙げさせてもらいます。

悪に対する考え方

ピーターたちは自分たちと対立するヴィランたちに対して「君たちのことを治してやる」というスタンス、かつ「科学の力で君たちを治すことができる」という考え方で問題を解決していきます。

ここにちょっとしたやだみを感じてしまう面は否めません。

ヴィラン側の哲学というか、悪の概念がかなり薄っぺらくなってしまうと思うし、ちょっと上から目線でこられている感覚もあるので、あっさりスパイダーマン側についてしまうドック・オクなんかは「あらそんなにあっさりいいの?」感は正直ありましたね。

ただこの善と悪の哲学的な問題に突っ込みだすのはこの映画でやるべきではないのは確かなので、この辺りはバットマンさんに任せる方向でいいのでしょう。
THE BATMAN―ザ・バットマン―、超楽しみ)

ヴェノム問題

これはほんと問題のシーンです。
ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ(2021)であんなエンドクレジットを見せておいて、本編に絡まず退場するなんて、なんということでしょう。

とんだ肩透かしもいいとこですよ。

個人的にあの映画はヴェノムのMCU合流を伝えるためだけの映画だったと思っているので、その結果あんな形での出番のみで終了されると大変困ります。
MCUにシンビオートを持ち込んだだけという…

今後のMCUにシンビオート(=ヴェノム?)は登場するが、エディ役のトム・ハーディは退場っていうことなんですかね。残念。

ドラマ「ホークアイ」との関連

最後に、2021年末に配信されたDisney+のドラマシリーズホークアイとの関連です。
ノー・ウェイ・ホームのオープニングで、スパイダーマンのスウィング中にホークアイ本編で登場するブロードウェイミュージカルROGERS THE MUSICALの看板が写る、ラストシーンではニューヨークがクリスマス一色になっていることから、ノー・ウェイ・ホームホークアイは同時期、厳密にはノー・ウェイ・ホームの直後くらいにホークアイの物語が始まっていると思われます。

日程が多少ずれているとはいえ、ニューヨークの空があんなことになっていたらさすがにもっとホークアイたちの間でも話題になるように思いますが、とくにそれっぽい言及はありませんでしたよね。(多分)
ノー・ウェイ・ホームエンディング手前のJ・ジョナ・ジェイムソンの発言を聞くと、ピーターパーカーの存在は忘れていますが、スパイダーマンの存在と起こした騒動については認知されているようでした。
まあこれは単に映画のネタバレになるから触れなかっただけということなんでしょうかね。

とにかく、スパイダーマンの物語はいったんリセットされ、振出しに戻ったような状況なので、あんまり必死に今後の考察をしたところで仕方ないですから、素直に今後のMCU、あるいはディズニーとソニーの契約交渉を見守りましょう。

まとめ

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本作は、マルチバースが物語の主軸になっていくこれからのMCUにおいて、ついに他ユニバースとのクロスオーバーが起きるという大事なチェックポイント的作品になっているのと同時に、スパイダーマンのホーム・シリーズの最終作にして、これまでのスパイダーマン映画をもまとめ上げた一つの到達点として、映画史的にも重要な一作となったのではないでしょうか。

なにより、アベンジャーズの一員として宇宙を救い、恋人も手に入れ、世界中に素性が知れ渡り良くも悪くも “超有名スーパーヒーロー” になってしまったMCUのスパイダーマンを、ニューヨークで活動する “親愛なる隣人” スパイダーマンへ見事にリセットして見せたのは、マーベルスタジオのさすがの手腕だったと思います。
(それだけマルチバースという概念を持ち出すと何でもありになってしまうということでもありますが)

MCUの次回作はドクター・ストレンジの続編ということで、ワンダビジョンで少し心配な感じになってしまったワンダや、おそらくホワット・イフ…?で登場した闇落ちストレンジらしき人物も絡んでくる様子です。
マルチバースで描かれる今後のMCUには大変期待ですが、いよいよDisney+に加入していないとMCUには置いていかれるようになってきましたね! 大変!

おわり

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