作品情報
制作年 | 2022年 |
制作国 | インド |
監督 | S・S・ラージャマウリ |
出演 | N・T・ラーマ・ラオ・ジュニア ラーム・チャラン アーリヤー・バット |
上映時間 | 182分 |
あらすじ
舞台は1920年、英国植民地時代のインド
引用元:公式サイト
英国軍にさらわれた幼い少女を救うため、立ち上がるビーム(NTR Jr.)。
大義のため英国政府の警察となるラーマ(ラーム・チャラン)。
熱い思いを胸に秘めた男たちが”運命”に導かれて出会い、唯一無二の親友となる。
しかし、ある事件をきっかけに、それぞれの”宿命”に切り裂かれる2人はやがて究極の選択を迫られることに。
彼らが選ぶのは友情か?使命か?
『マガディーラ 勇者転生』(2009)、『バーフバリ 伝説誕生』(2015)、『バーフバリ 王の凱旋』(2017)でおなじみ、S・S・ラージャマウリ監督最新作です。
本作はおよそ7200万ドル(100億円以上!)というインド映画史上最高の製作費で作られ、既に世界中で大ヒット、日本でも公開初週の興行収入がインド映画史上1位を記録しています。
この勢いはもしかすると今年度のアカデミー賞にも躍り出る…?
今年のエンタメ映画といえばもちろん『トップガン マーヴェリック』(2020)がありました。
私も含め、「さすがにもう今年はこれを超える娯楽大作はないだろう…」と考えている方は多かったのではないでしょうか。
しかし!
あの『トップガン』を超えるエンタメがなんと同じ年に登場してしまいました。
いや、『トップガン』を超えるどころか現状この映画が娯楽超大作の頂点に立ってしまったかもしれません。
そんなとんでもない一作となってしまった『RRR』の面白さ、最高なポイントを振り返っていきたいと思います。
インド映画=ボリウッドではない
まずは前提の話から始めさせていただきますが、本作、というかラージャマウリ監督作はボリウッド映画ではありません。
ボリウッド映画というのはインド映画全般を指しているのではなく、インド映画全体の中の一種類を指しているにすぎません。
よく知られている通り、インド国内では数百もの言語が使用されており、地域によって使用されている言語が異なります。
映画も同様に地域、言語ごとにそれぞれ産業が発展しており、様々な言語で映画が作られています。
ボリウッド映画というのは、数あるインド映画の中でも主にムンバイで製作されるヒンディー語映画を指します。
ボリウッドはもちろんインド最大の映画産業であるため、もっとざっくりと「北インド映画」という言われ方もしています。
では本作『RRR』は何ウッド映画なのかというと、ハイデラバードを中心に作られるテルグ語映画であるトリウッドに属します。
規模としてはボリウッドについてインド二番目です。
ボリウッドが北インド映画と呼ばれるのに対してトリウッドは南インド映画とも呼ばれます。
他にもコリウッド、モリウッド、ゴリウッド、ロリウッド、サンダルウッドなどなどめちゃくちゃいっぱいあります。(ありすぎ。一個も観たことない)
このように、本作『RRR』はボリウッド映画ではないので注意しましょう。
せっかくなのでちなみに念のため書いておくと、これら〇〇ウッドの元ネタであるハリウッド映画というのも、ボリウッド=インド映画ではないのと同様にハリウッド映画=アメリカ映画ではありません。
厳密にはハリウッド地域で作られた映画を指し、狭義ではいわゆる「ビッグ・シックス(ワーナー、ディズニー、パラマウント、ソニー、20世紀、ユニバーサル)」と呼ばれた企業が作る映画を指します。
これを考えればボリウッド=インド映画ではないことは想像つくかと思いますが、いかんせんインド映画はアメリカ映画ほど日本国内に入ってこないので、そのような誤解が生まれても仕方ない面はありますね…
エンターテインメント全部盛り映画
ここから映画の内容に入っていきます。
既にあらゆることろでこのような旨の表現がされていますが、端的に言ってこの映画にはエンターテインメントの全てが詰まっています。
インド映画には「ナヴァ・ラサ(9つの感情)」と呼ばれる要素が必ず含まれるとよく言われています。
この映画も当然その9つの要素(恋愛、ユーモア、怒り、悲しみ、嫌悪、恐怖、勇敢、驚き、平安)が詰まっていますが、その強度が半端ではないのです。
観客の感情を高揚させる圧倒的な物語、演出、アクション、ダンスの力は、冒頭にも述べたように正直なところ『トップガン マーヴェリック』を超えていると思います。
けれん味もやり切れば最高にクール
この映画の圧倒的なパワーを生み出している大きな要素の一つは、やはり「けれん味」ではないでしょうか。
本作のキメ画での見得の切り方はもはや歌舞伎と言えます。
「今どき見得を切るとか外連味なんて出されてもカッコいいなんて思わんよ」と思っていた我々に、外連味のカッコよさを突き付けてくれた例といえば、MCUのアイアンマンやキャプテンアメリカなどが記憶に新しいあたりでしょう。
コミックの絵柄だけ見るととてもカッコいいとは思えないアイアンマンも、「アイアンマンはカッコいいんだ!」と言わんばかりに正面から、あの無駄に洗練された無駄のない無駄な動きで装着されるアイアンマンスーツ、デッドプールが真似すると膝の皿が割れてしまうでおなじみの片膝をついた着地を見せ、今やアメコミ界でもトップの人気キャラになってしまいました。
キャプテンアメリカにしても、『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』(2011)公開前には、「今どき星条旗カラーでへんなヘルメット被ったおじさんがカッコいいわけないだろ」と思われていましたが、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)になる頃には彼の「Assemble…」の一言にブチ上がってしまうくらいにはみんな大ファンになってしまいました。
しかし、そんなMCUの外連味などゆうに上回った、ネクストレベルの外連味が『RRR』にはあります。
キメ画、決めポーズというのは、一切のニヒリズムを抜きに真正面からド直球でやり切れば、最高なのだということを今一度実感させてくれます。
ラーマとビームそれぞれの登場シーン、二人が友情を築く少年救出シーン(あの旗何に使うんかと思ったらそういうことかよ!)、ビームが猛獣たちと登場するシーンからのラーマとビームの水炎バトル、何と言ってもクライマックスのラーマ降臨と水中から浮上してくるビーム…など挙げたらキリがありません。
キメ画の際に何でもスローにされると、私自身もすぐ「300じゃん!」「ザック・スナイダーかよ!」とか言いがちですが、ここまでザック・スナイダーを超えるキメ画でやられるとすっかりガッツポーズです。
ビームが猛獣たちとトラックから飛び出てくるカットや、水中から槍を持って現れたところなんかはあまりのカッコよさに思わずニコニコだったのは私だけではないはず。
見たことのないアクション
上記の突き抜けたけれん味のおかげで、ハリウッド映画ではギャグになってしまうようなアクションも激熱ブチ上がりシーンとして機能します。
観客全員の記憶に強く残っているアクションと言えばもちろん、世界最強の肩車ではないでしょうか。
ギャグではなく(ちょっとあるけど)、カッコいいアガるものとしての肩車アクションというのは、まさに本作にしかできなかった、誰も見たことのない新しいアクションシークエンスだったのではないでしょうか。
この肩車シークエンスに入るにあたり、事前にモンタージュの中でビームがスクワットをしていたり、ラーマが獄中で懸垂をしていたりと以外に丁寧な前振りも光っています。
クライマックスでの戦闘シーンでは、ビームが大型バイクを振り回すという、これまたそうそう見られない戦い方を見せてくれました。
二輪車を振り回して戦うといえば、『龍が如く』シリーズの桐生一馬氏が思い浮かびますが、さすがの桐生一馬氏でもあのサイズのバイクを振り回すにはヒートアクションでなければ厳しいと思うので、伝説の極道を上回っていくビーム、最高でしょう。
歴史ものよりも馴染みやすい物語
個人的な印象になりますが、本作は話の内容というのも、私のようなインド映画に疎い人間でも楽しみやすかたった要因の一つかと思います。
前作『バーフバリ』二部作は日本でもヒットしてはいますが、いかんせん歴史ものであり君主制の話なので、君主制自体に良い印象を持っていない人だったり、インドの歴史(それも古め)にはあまり興味を持てないという人にはなかなか取っつきにくい作品だったかなと感じます。
実際私も今回のタイミングでようやく鑑賞したクチです。
王家の話というだけでちょっとノれないんですよね…
なので『ブラックパンサー』とかもちょっと苦手。
そんな前作に対し今回は、メインテーマが主人公二人の友情であること、歴史ものとも言えますが一応近代であり、世界史を勉強した人の間では「ブリカス」でおなじみ大英帝国をぶっ飛ばす話であることもあり、前作、というか過去の大作インド映画に比べると間口は広かったのではないかと思います。
それにしても本作における大英帝国の悪者っぷりは突き抜けていました。
女性を思い切り前蹴りや、子供を背中から射殺する様子を直接的に描いたというのは、ハリウッド映画でもそうそうやらないレベルの悪行描写だったと思います。
でも大英帝国には別に同情は不要なのでまあ良いのではないでしょうか。
テンションぶち上げダンスパーティー
インド映画と言えばダンスシーンということで、本作にもしっかりダンスシーンが入っていました。
が、まともなダンスシーンと言えばパーティーのシーンのみで、意外なほどにダンスのないインド映画となっていました。
しかも、インド映画に疎い人間が抱きがちな「恋愛描写や感情表現のために急にダンスが始まる」といったイメージとは異なり、キャストたちがみんなでダンスを始めることに物語上の必然性がありました。
前述の物語のテーマ同様に、ダンスの入れ方の自然さも本作の間口の広さや本作が世界市場向けに作られているのだということを実感します。
そしてこの唯一のダンスシーンが本当に素晴らしいんですよね…
撮り方に関してはこちらの方が上とは言いませんが、「もうずっとこれでいい感」「ガッツポーズ感」でいうと、『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021)の体育館ダンスシーンを思い出すレベルの強度だったのではないでしょうか。
終盤、インド人はダンスを知らないと馬鹿にし差別していたイギリス人男性たちも一緒に踊りだしマラソンダンスが開幕、それを見たラーマがサムズアップしたところで「それでいい!」と思いましたよね、本当に。
終盤を冷静に振り返る
この映画はもう最高なのでとりあえず全員観ればいい映画なのだということでテンション高いまま終わりたいところですが、ラスト付近に関しては少し冷静になって振り返りたいところです。
まず一つは本作の結末です。
これは既に指摘している方も多いですが、クライマックス手前のビーム拷問シーンにて、ビームの歌に鼓舞された民衆が団結し、武器を持たずしてイギリス人たちを退けるシーンがあります。
それを見ていたラーマは、自分が故郷で交わした約束=武器を持ち帰る以外の道もあったのかもしれないと悩みます。
しかしエンディングはというと、しっかりイギリス軍の武器庫から武器を持ち帰りハッピーエンドということになっています。
ラーマはそもそもそういう約束をしてしまったのでそれを果たして映画を終わらせないわけにはいかないということなのでしょうが、あのビーム拷問シークエンスが強力なために、よくよく考えると、あのラーマの逡巡は何だったのだろうと若干引っ掛かるポイントです。
これに関しては、観る側の思想によって感じ方が異なるかもしれません。
私なんかは、今回の終わり方のように武器を手に入れる方が現実的だよなと思ってしまう派なので、鑑賞時は正直あまり引っかからなかったところではあります。
暴力により否定的な考えを持っている方の方がここは引っかかるのかもしれません。
最後に、ここが最も重要だと思うのですが、物語終了後のカーテンコール的なミュージックビデオパートです。
ここに関する指摘は、映画評論家・翻訳家の柳下毅一郎さんが行っており、私もなるべく多くの方に留意してほしいと思ったので、柳下さんの指摘を引用する形で取り上げさせていただきます。
それは、この映像の中でインド独立の闘士たちを称える箇所があるのですが、そこに皆さんご存知ガンジーやインド初代首相ネルーが登場しないという点です。
現在インドはモディ首相率いるBJP(インド人民党)が政権を運営しています。
モディ首相は「ヒンドゥー至上主義」を掲げている人物です。
ヒンドゥー至上主義とは、要するにヒンドゥー教の教えが最も優れているから、みんなヒンドゥー教の教えに従うべきとする考え方です。
インド国内で最大の人口なのはヒンドゥー教徒ですが、当然他にもイスラム教、シーク教、キリスト教の人間も多く存在しています。
そんな中ヒンドゥー至上主義を掲げて宗教間の分断を煽り、首相に選ばれ現在の政権を握っているのがモディ首相です。
その現在のインドの状況を踏まえると、民族間、宗教間の融和を訴えて活動していたガンジーがあそこで登場しないのは、かなりヒンドゥー至上主義者にとって好ましい人選になっていると言えてしまいます。
ラージャマウリ監督自身ヒンドゥー至上主義者ではないし、一応本作の大筋的には、ラーマとビームという民族も文化圏も異なる両者が固い絆を結び、支配者であるイギリスを打倒するという話なので、全体としては融和を訴える方向の映画になっているとは言えます。
とは言っても、クライマックスでラーマは文字通り伝説の戦士ラーマとなってイギリス人を打倒するわけですが、ラーマというのはまさにヒンドゥー教徒の信仰の対象になっている人物であり、これもヒンドゥー至上主義的にはかなり良い感じの結末になっていると言えます。
現在はボリウッドでもヒンドゥー教に否定的な発言をしたアーミル・カーン(ムスリム)がCMを降板させられたりと、かなりヒンドゥー至上主義のパワーが強まっているようなので、あまりにヒンドゥー至上主義に反するようなメッセージ性のみで貫くのは厳しいという判断だったのかもしれません。
どちらにせよ、このあたりの事実は多少頭に入れたうえで本作を鑑賞したいところです。
おわりに
本作はほぼ万人に薦めたい最強のエンタメ映画です。
でも以外に血が多かったり痛いシーンが多いので、完全に万人向けとも言いにくいですが、なるべくならこの映画は今映画館で観ておくべき映画です。
さすがにこれを超える映画はしばらく、少なくとも今年はもうないでしょうね…すごすぎる。
おわり
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