『ロッキーVSドラゴ ROCKY Ⅳ』(2021) ネタバレ解説 感想|スタローンが描きたかった本当のロッキー

解説・感想
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作品情報

制作年2021年
制作国アメリカ
監督シルヴェスター・スタローン
出演シルヴェスター・スタローン
タリア・シャイア
カール・ウェザース
ドルフ・ラングレン
上映時間94分

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あらすじ

王者アポロ・クリードとの戦いを経て、チャンピオンとなったロッキー・バルボアの前にソ連から“殺人マシーン”イワン・ドラゴ が現れる。
ドラゴとの激戦によって、ライバルであり親友のアポロを失ったロッキーは、対ドラゴ戦のため、ソ連へ乗り込むが……。

引用元:Culture-ville

「全人類が観るべき」でおなじみ『ロッキー』シリーズの4作目、シリーズ最大のヒット作となった『ロッキー4/炎の友情』(1985)が、なんとこの2022年に帰ってきました。

私は平成生まれの人間で、リアルタイムで本シリーズを劇場鑑賞してきた世代の方々ほどの思い入れはありませんが、それなりには大好きな『ロッキー』がシネコンのスクリーンで観られるとなれば、劇場に駆けつけざるを得ません。

映画館も夏休みの雰囲気で、『ONE PIECE FILM RED』を観に来た子供たちを横目に、おじさんたちと熱い漢の闘いを観てきましたのでその感想をここに記しておきます。

スタローン本人による再編集版

Sylvester Stallone 'ROCKY IV' Director's Cut Interview | Cinemablend

急に『ロッキー4/炎の友情』が映画館で上映されるなんて何事かということですが、本作はコロナ禍によって時間ができたスタローンが、以前から作り直したいと考えていた『ロッキー4』を、未使用シーンをふんだんに使って自ら再編集したバージョンです。

今回どれくらいの未使用シーンが新たに使われたかというと、約42分です。
上映時間が94分なので、ほぼ半分が未使用シーンで構成されてます。大変です。

42分も未公開シーンが観られるという時点で、映画の出来に関係なく誰もが劇場に馳せ参じなければならないのはコモンセンスなのですが、それ以上に大きいのは、『ロッキー』シリーズのような80年代の名作がシネコンのスクリーンで(シネコンの中では小さい箱での上映だけど)しかもロードショーされているという事実への感動です。

ちなみにこのディレクターズカット製作にあたっては、画質も4kにリマスター、画面サイズもいわゆるシネスコ、ワイドスクリーンに生まれ変わりました。

シネコンで過去の名作が観られる機会といえば、TOHOシネマズが行っている「午前十時の映画祭」がありますが、やはり上映時間が平日の午前中ということで劇場に足を運べる人は限られています。

なので、公開規模がかなり小さいとはいえ全国のシネコンで一日中『ロッキー』が上映されていて、それを見に行けるというのは非常に喜ばしいことではないでしょうか。

ということで、この調子で勢い余ってクリスマスあたりは『ダイ・ハード』なんかを一日中上映したら良いんではないでしょうか。

そんなのは一部の映画オタクしか喜ばないですね、すいません。

スタローンが作りたかった『ロッキー4』とは

映画評]「ロッキーVSドラゴ:ROCKY IV」…上映時間94分・未公開映像42分、生まれ変わった「ロッキー4」 : 読売新聞オンライン
© Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc.

話が逸れてしまったので本題に戻ります。

今回、スタローン本人が何百時間もかけて再編集した本作ですが、そうまでして作りたかった『ロッキー4』とはどんな物語だったのか。

これまでの通常版と見比べるとその変わりっぷりと編集の細かさに驚かされますが、先に一言で言えば、「テーマを一点に絞って」います。

通常版は、当時の時代的な背景に強く影響を受けており、テーマが少々ブレ気味でした。
具体的に言えば、当時を象徴する「東西冷戦」とこれまでのシリーズから続く「アポロとの友情≒ドラマ性」です。

今回、この大きな二つの軸のうち「東西冷戦」の雰囲気をできる限り薄くし、アポロとの「友情」の部分をより深堀った物語となっています。

本作の通常版からの変更点はもはや上げきれませんが、総じて言えるのは、今のスタローンだから、今再編集されるからこそ実現できた「冷静さ」です。

それも「80年代らしさ」という魅力ではありますが、今の時代に観るには色々と「過剰な」演出や語り口をいたって冷静に、削るべきところは削り、残すべきところは残す編集を行っています。

当時の時代感を最小限に

© Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc.

通常版では、オープニングからフルスロットルで「東西冷戦」を前面に押し出しているような作品でしたが、今回このテーマに関しては非常に良い抑制が効いていました。

星条旗が描かれたグローブと鎌と槌が描かれたグローブとがぶつかって爆発するという、直球ストレートにも程があるオープニングは削除。

ラストシーン、ロッキーのスピーチに観客だけでなく、ソ連の書記長(露骨にゴルバチョフっぽい)までもが立ち上がって拍手してしまうエンディングも変更されていました。

シルヴェスター・スタローンというともちろん共和党支持者として有名ですが、これらの演出についてはさすがに当時も「右翼的すぎる」と批判があったそうで、今回この冷戦周りの演出を大幅に抑えたのは、非常に良い冷静さだったと思います。

また、これは地味に賛否が分かれていそうですが、『ロッキー4』名物家政婦ロボットは完全に排除されていました。

特にリアルタイム世代の方々ですと、「あれこそ『ロッキー4』の良さだ」と言われるかもしれませんが、2021年にディレクターズカットが製作されるとなれば、さすがに家政婦ロボットの退場はやむを得ないでしょう。

アポロの描写がよりシリアスに

© Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc.

ここからが今回特に力の入っているドラマ性の強化に関わる変更点ですが、まずはアポロの描かれ方、より具体的に言えば彼がドラゴに挑むまでの心理描写がよりシリアスになりました

通常版では、どうしてもアポロが無謀に突っ走っている感がかなり出てしまっています。
まずはドラゴとの試合に向かうまでの描写です。

アポロがロッキーの家でドラゴに挑むと相談するシーンでは、ポーリーと家政婦ロボットとのギャグシーンが挟まるため真剣さが薄れていました。

アポロがドラゴの実力を少し甘く見積もっている感も強く、ロッキーを説得するシーンでは「戦いを忘れるくらいなら死んだ方がマシだ」などと死亡フラグを立てまくります

この辺りは大きく変更されており、家政婦ロボットが削除されたことでアポロの相談に真剣さが増し、アポロの本気度がより伝わるシーンになりました。

ロッキーを説得するシーンもより上品になっており、アポロが「死」を口にするセリフはカットされました。
またロッキーが説得されたことを示す演出も、通常版にあった「お前は説き伏せるのが上手い」というセリフがカットされ、アポロが思いを語ったところから会見シーンに切り替わることで説得されたことを示す、という表現に変わっていたのも良い改善だったと思います。

そしてアポロvsドラゴ戦も非常に細かな変更が行われていました。
まず『ロッキー4』の名シーンである、ジェームズ・ブラウン本人が「Living in America」を歌い上げるアポロの入場シーンですが、今回はこのシーンに対して一歩引いたスタンスを取っています。

アポロが盛大に登場すること自体は変わらないのですが、アポロの入場を見て喜んでいるアポロの妻や最初にちょっと笑っているロッキーの表情がカットされ、呆気に取られているドラゴ夫妻や、あきれ気味のエイドリアンとロッキーの表情のみとなっています。

やはりここでも当時やりすぎた「アメリカ万歳」描写を冷静に描きなおすスタローンの冷静さが見て取れます。

試合に関しても、「アポロがマウスピースを忘れる」「ステップでちょっとよろける」など、これも少し過剰気味だったアポロの死亡フラグ、アポロの無謀さの印象を減らし、そうしたことでアポロの敗北もよりドラマティックになったのではないかと思います。

また、アポロ周りの描写で賛否が分かれそうなのは、序盤のスパーリングシーンのカットだと思います。
個人的にはここに関しても今回の方が良かったのではないかと思います。

あのスパーリングシーンは、前作『ロッキー3』のエンディングを再度見せ、最中こそ見せないもののスパーリング後のロッキーの傷を見せることで、なかば「スパーリングのその後」を見せたというシーンですが、あのスパーリング開始からのクロスカウンターでストップモーションという前作の終わり方が完璧なので、あのスパーリングのその後には言及するべきではないと思っていた派の自分としては、今回の完全カットには非常に好感を持っているところです。

ロッキーの戦う動機も変化

Image gallery for Rocky IV - FilmAffinity
© Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc.

もちろんロッキーの描写に関しても変更が行われています。
通常版では、ドラゴにアポロが殺された後、アポロを抱きかかえるロッキーとドラゴとが数秒間目を合わせるカットがあり、このカットによってロッキーはアポロを殺された復讐心によってドラゴとの対決を決心している印象が強くなっています。

合わせて、通常版ではロッキーがタオルを投げ込むことを躊躇するカットも少し長めに入っており、そのことに対する罪悪感というのもモチベーションになっている印象です。

この辺りが今作ではカットされており、試合までのシリアスさも相まって、アポロの死は避けれられない運命的なものであり、ロッキーは復讐というよりもアポロが果たせなかった無念、意志を自分が引き継いでドラゴと対決するというようなニュアンスに変わっており、ドラマとしてはよりアツいものになっていたように思います。

もう一点印象的なのはアポロの葬儀シーンです。
通常版のロッキーは、特に感情を出さず淡々としたスピーチになっていましたが、今回のロッキーは泣きながらのスピーチ
しかも「お前のおかげで今の俺たちがある」「愛している」というセリフが飛び出します。

前作『ロッキー3』におけるビーチでのトレーニングシーンは実質「ロッキーとアポロのセックスである」という見方は今となっては常識だと思いますが、さらに今回ロッキーに「I love you」と言わせたのは非常に大きなことではないでしょうか。
スタローンの泣き演技が正直上手いとは言えない部分は否めないですが、死に対する復讐心ではなくロッキーとアポロの絆を強調したのは良い選択だと思います。

今回のディレクターズカット版は、通常版の多くの部分を削っていますが、この葬儀シーンに関しては通常版からより上乗せを行っており、ここも現在のスタローンの、抑えるべきところは抑えて出るところは出るという上手い演出のあたりでしょう。

ドラゴの人間味を強調

ロッキー4』ドルフ・ラングレンの衝撃 イワン・ドラゴの恐ろしさに震えた86年のあの夏(クランクイン!) - Yahoo!ニュース
© Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc.

そしてここが今作の最も注目すべきポイントでしょう。

通常版では「ソ連の殺人マシーン」という印象がかなり強かったドラゴですが、今回の再編集によって彼の人間味が上手く増されていました

通常版でも、ロッキーとの戦いを通して彼の人間性が徐々に垣間見えていく描写はとられていましたが、今回はそれがより丁寧なものとなっていました。

ドラゴのセリフや表情のカットが増えており、「マシーン感」を強調されていた通常版ではあまり見えにくかったドラゴ演じるドルフ・ラングレンの「無表情の内側で動いている感情」の演技がしっかり分かるようになっており、「ドルフ・ラングレンめっちゃちゃんと演技してるじゃん!」と改めて感心すること必至です。

特に、試合の中でも非常に印象的なシーン。
ロッキーがドラゴにカウンターを食らわせた後の、ロッキーサイドでの「あいつは機械じゃない、あいつも生身の人間なんだ」に対してドラゴが「あいつは人間じゃない」と言うシーンで、「あいつは野獣だ」の一言が追加されていたりといった、ドラゴが人間らしくなっていく様が丁寧に描かかれるのは、後の『クリード』シリーズのことも考えれば間違いなく正しい再編集ではないでしょうか。

登場人物を絞ることでドラマ性を強調

Rocky 4 Directors Cut Differences Every New Scene & Story Change –  Wechoiceblogger
© Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc.

上記のように今回はとにかくアポロ、ロッキー、ドラゴのドラマ性に全振りしているので、当然その代わりに彼ら以外の人物については出番が少なくなっています

特に印象的なのはドラゴの妻ルドミラの存在感の薄さです。
ここに関しては「演じているブリジット・ニールセンが離婚した元妻だから」という邪推もできますが、上記三人のドラマ性に集中するのであれば彼女の存在を薄めるのはやむを得ないのではないでしょうか。

同じようにアポロの妻やポーリー、ロッキーの息子に関してもカットは減っているのですが、唯一の例外はエイドリアンです。

エイドリアンに関しては複数の未使用シーンが追加されており、ドラゴ戦で序盤押され気味のロッキーに対して「立て!立て!」というカットが追加されたりという細かい変更も含めて、常にロッキーに正論をぶつけながらも、ロッキーを信じて必ず最後まで見届けるという強さがより伝わる良い再編集でした。

やっぱりスタローンはすげえ!

細かいことはいい!シンプルに燃えろ!『クリード 炎の宿敵』を観るなら必見『ロッキー4/炎の友情』 | 映画 | BANGER!!!
© Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc.

このように、全体を通してとにかく現在のスタローンの冷静な視座が見て取れるディレクターズカットになっており、本当に今観る価値のある作品に仕上がっていると思います。

今作は大胆な変更もありますが、本当に細かい変更や追加が多く非常に感心させられますので、ぜひ通常版と見比べて鑑賞するのが良いと思います。

起きる出来事は変わらないのに、編集や語り口によってこうまで印象が変わるという、映画体験としても貴重な経験ができる機会ですので、ぜひこのタイミングを逃すことなく劇場に駆けつけましょう。
本記事を執筆時点での情報ですが、本作は今のところ配信の予定も無いそうです。

スタローンというと、あまり映画になじみのない、けどスタローンの存在は知ってるみたいな人々からは「生卵飲んでエイドリアンって叫んでる人でしょ?」「なんか絶叫しながら銃を乱射してる人でしょ?」と少々揶揄されがちですが(まあそれ自体合ってるけど)、スタローンは普通に腕のある一流の映画作家だぞ!というのが分かる作品でもありますので、多くの方に観ていただければと思います。

おわり

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