『大人は判ってくれない』(1959) ネタバレ解説 感想|大人になるということとは

解説・感想
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作品情報

制作年1959年
制作国フランス
監督フランソワ・トリュフォー
出演ジャン=ピエール・レオ
上映時間99分

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あらすじ

親子3人で狭いアパートに暮らすアントワーヌ少年は両親が好きでなく、学校では担任教師から問題児として扱われている。やがて悪友ルネと共に学校をサボってみるが、町で偶然、母親の浮気を目撃してしまう。それからの彼は、母親がもう死んだと嘘をつくようになったり、帰宅しなかったり、泥棒をしたりと、素行がますます不良化していき……。

引用元:WOWOW

これはもう紛れもない名作ですよね。
フランソワ・トリュフォー監督の長編第一作目であり、トリュフォーの自伝的作品といわれています。
また、1950年代末から1960年代にかけてのフランス映画界で巻き起こった革新運動、ヌーヴェルヴァーグの先駆け、そして代表作として名高い作品です。

という感じで、いったん教科書的な紹介をさせてもらいましたが、私自身フランス映画はそんなに詳しくもないし、なんなら若干の苦手意識まであるくらいなんですよね。
“シネフィル” みたいな括りとかほんとしんどいし、「ヨーロッパの映画が好きです」でいいよ。

ただ、この大人は判ってくれないに関しては、そんな私でも大好きになっちゃうほど普遍的だし、リアルだし、なによりわかりやすいです。

だってもう大人は判ってくれないっていうタイトルが最高ですもんね。「ほんとそれな」って話ですよ。

ちなみに原題は「Les Quatre Cents Coups」で、直訳すると400回殴るみたいな意味なんですが、フランス語のイディオムで、大騒動を起こす的な意味らしいです。
そんな原題から大人は判ってくれないという邦題を付けられたのは相当なセンスだと思います。
イカした邦題ランキングなら上位入賞間違いなしじゃないですかね。
英語タイトルはそのまま直訳しちゃって「The 400 Blows」です。やっちまったな。

“大人は判ってくれない” よね

引用元:https://film-grab.com/2013/07/26/the-400-blows/#

この気持ちは、子供の頃には誰しも感じたことがあるんじゃないでしょうか。
私は、大人になったという自覚をいまいち持てないまま、年齢的には大人にカテゴライズされるようになってしまった人間です。
そんな私から見て、大人が子供のことをわかってくれないのは当然というか、仕方ないことだと思います。(わかっている気になっている人は多いですが)
子供のことなんかわからないのが “まともな” 大人だと思います。

なぜなら「社会で生きていくということはそういうことだから。」

と、あらゆることに折り合いをつけ、妥協し、諦め、そして忘れていくこと」が大人になること(あるいは老い)だと思うからです。
人が誰かに対して「大人になれよ」と言うとき、多くの場合「妥協しろ」「諦めろ」「もう忘れろ」といった意味合いで使っています。
多くのまともな大人たちは、誰しもがかつて子供だったにも関わらず、子供時代を忘れた大人たちの社会に飲み込まれていくことで自分たちも子供時代を忘れていき、大人たちの社会の一員になったのです。

“判ってくれない” 大人たち

この映画に登場する大人たちは、ことごとく少年アントワーヌのことをわかってくれません。
アントワーヌの気持ちをまともに聞こうとせず、彼の行動やその理由を想像することもしないまま、目の前の出来事や結果だけを見てアントワーヌを決めつけ、一方的に断罪します。

両親

引用元:https://film-grab.com/2013/07/26/the-400-blows/#

お母さんは現代で言うところの毒親ですね、ちゃんと具体的に言えばネグレクト、つまり児童虐待をしている母親です。
両親は別々の個室を持っているのに、アントワーヌには部屋を与えていません。
彼は玄関前の廊下のような謎スペースに置かれたソファで寝ており、パジャマは穴だらけ、布団の代わりにボロボロの寝袋を使っています。
また、お母さんはアントワーヌのことを雑用係としてこき使います。
たとえアントワーヌが宿題をやろうとしても、「宿題なんかより食事の準備をしろ」と言ってきます。
しかし最もつらいのは、アントワーヌを妊娠した時に本当は中絶しようとしていたことです。
ここまで自分の子供に愛情のない親を見るのは非常に悲しいですね…

一方お父さんはというと、一見お母さんよりは優しそうに見えます。
しかし、休日は自分の趣味に没頭しており、結局彼もアントワーヌのことはろくに気にかけていません。
実は彼とアントワーヌは血がつながっておらず、アントワーヌはお母さんの連れ子であり、過去にお母さんがアントワーヌを中絶しようとしたことは知りません。
そのため、お母さんのことが好きになれないアントワーヌに対し、お父さんは「お母さんはお前にきつく当たるけど、本当はお前のことを愛しているんだ」と適当なことを言います。

アントワーヌはそこで思わず爆笑してしまいます。

なぜならアントワーヌは、お母さんが自分のことを中絶しようとしていたということを知っており、初めから自分のことを愛していないことも知っているからです。
この時のアントワーヌの乾ききった笑い声がまたつらいんですよね…

学校の先生

引用元:https://film-grab.com/2013/07/26/the-400-blows/#

学校の先生もアントワーヌにつらく当たります。
先生の場合はアントワーヌだけでなく、彼が問題児だと決めつけた生徒に対してつらく当たります。
板書中に生徒が騒がしくなったらその原因はシモノ君だと決めつけるし、アントワーヌは嘘しか言わないと決めつけています。
そんな彼はとにかく生徒たちに罰を与えます。
映画を見る限りでは、教師として知識を与えるよりも罰ばかり与えています
印象的なのはエッセイの宿題についてのくだりで、宿題の内容は自分の経験したことを自分の言葉で書き綴ることでしたが、アントワーヌは大好きだったバルザックの詩をそのまま書いてしまいます。
それを読んだ先生は、アントワーヌが書いたエッセイを盗作だと非難します。
しかしアントワーヌは、その詩をカンニングして書いたわけではなくすべて暗記して書いたものです。
そんなことを一切想像できない先生は、「盗作だ、不正だ」といって最終的にアントワーヌを停学処分にしてしまいます。

普段の授業ではあれだけ詩の暗誦をさせているというのに…

アントワーヌはカンニングしたわけではないと擁護したルネのことも、先生は停学処分にしてしまいます。
「不当です」とルネに反論されてしまい言い返せなかった先生は、「私は教師だぞ」と権威を持ち出して強引にルネを追い出してしまいます。

社会という檻

引用元:https://film-grab.com/2013/07/26/the-400-blows/#

この社会は、理不尽だし、嘘や欺瞞に満ち溢れているし、多くの人々は自分のことしか頭にない、自分さえ嫌な思いをしてなければいいと思っているし、他人に対しては権威や権力を振りかざして常に自分の方が上に立とうと必死です。

この映画に登場する困った大人たちの言動について淡々と描いてきましたが、結局のところ昔も今も、多くの社会はこういう大人たちによって成り立っているのだと思います。

端的に言えば、いつの時代も「世の中はクソだし間違っている」ということです。

さて、映画や小説など物語において学校や刑務所が舞台の場合、そういった人を閉じ込めるような施設は「社会」を表していることが常です。
実際これは経験としてその通りですよね。(刑務所の経験はありませんが)

これはたくさんある捉え方の一つにすぎませんが、つまり社会というのは、人々をその中に閉じ込め、法律や校則、常識といった様々な規範やルールで縛り、(大人たちの)権力による外的な圧力で秩序化を図るものと言えます。

一般的に「社会人」という言葉は学生と区別して大人のことを呼ぶために用いられますが、はっきり言って学校だって、家庭だって社会ですよね。
学校を卒業して就労することが「社会に出る」ということではなく、子供も初めから既に「社会の中にいる」のです。
我々人間は、生まれた瞬間から死ぬまで常に何かしらの社会に属しており、それらの社会へ属さずに生きていくことはもはや不可能であり、社会という檻からは逃れることなどできないのです。

この事実を受け入れ、自分が組み込まれている社会に対して「そういうものだ」と割り切って適応できれば晴れてまともな大人になれるわけですが、子供は既に社会の中で生きているにも関わらず、まだ大人のようには適応できません。
子供たちは成長するにつれ徐々に自我が芽生えだします。
そして多くの子供たちは身近な社会、つまり親や教師の言動に対して疑問を持ち始め、一部の子供たちはそれらに反抗や逃亡を企てます。
社会は、そんな子供たちを「反抗期」「問題児」「不良」とラベリングし、時には暴力を伴う圧力で抑えつけ、秩序化を図ります。

アントワーヌの逃亡

アントワーヌの場合、親友のルネにそそのかされるがまま学校をサボったことをきっかけに、家庭や学校という社会からの逃亡を図ります

ルネの家にかくまってもらう、教師の指示を無視して学校を出たことで停学になるという形で一時的には逃亡生活を続けられましたが、お金欲しさに行ってしまったタイプライターの窃盗が(正確には返しに来たところを)大人に見つかってしまうことでアントワーヌの逃亡劇は幕を閉じます。

この時、父親の勤める会社からタイプライターを盗んだことや、最初に学校をサボった際の理由として母親が死んだことにしたというのは、逃げ出したいという気持ちの中に両親への反発心もあったことの表れだと思います。

その後アントワーヌは、父親の手によって警察へ突き出され、署内の文字通り檻に閉じ込められたのち、少年鑑別所という新たな場所に閉じ込められることとなります。

ようやくここではないどこかへ行けそうだったのに、結局逆戻りどころか、両親と縁を切られ、親友と離れ離れになってしまったアントワーヌは、少年鑑別所に閉じ込められることにも耐えられず、ついには少年鑑別所からも逃走します。

この最後の逃走が、本作のあまりに有名なあのラストシーンにつながります。

ラストシーン

引用元:https://film-grab.com/2013/07/26/the-400-blows/#

少年鑑別所を脱走したアントワーヌは、ロングショットによる長い逃走の末海岸に着きます。
波打ち際まで走りついた彼は、そのまま足を濡らしながら水辺を歩きます。
この時、足元にあった彼の足跡は波によってかき消されます。
彼が水の中を歩きながらこちらへ振り返り、アントワーヌと観客の目が合ったところで映像はストップモーションとなり、映画は終わります。

オープンエンディング

アントワーヌの表情をとらえたストップモーションというこのラストカットは、観客一人ひとりによって非常に様々な解釈が可能なオープンエンディングになっています。
実際、これまでたくさんの観客や批評家たちが様々な解釈でこのラストカットを説明しています。

海という終着地点

アントワーヌが逃げ続けた結果行き着いた先は海でした。
これは、彼にはもうこれ以上逃げ続ける道がなく行き止まりである、もう逃げられないという意味で捉えることができます。
一方で、たどり着いた海は水平線の見える開けた海であることから、まだ子供である彼には無限の可能性があると受け取ることも可能だと思います。

絶妙な表情

ストップモーションになった瞬間のアントワーヌの表情はすごく絶妙な表情をしています。
この表情についても、アントワーヌの心情をどう受け取るかは様々だと思います。
決意なのか、あるいは希望か、もしくは不安、それとも幻滅
という風に、観客一人ひとりがこの映画をどう見てきたかによって最後のアントワーヌの心情の捉え方もバラバラになるような、どの心情でもしっくりくるような本当に絶妙な表情です。

カメラ目線

最後のアントワーヌは、絶妙な表情に加えてカメラ目線で観客を見据えています。
このカメラ目線の意味というのも人によって変わりそうです。
ここまでアントワーヌの物語を見てきた観客たちに対する問題提起なのか、アントワーヌが代表して子供から大人への「どうして…」という問いかけなのか。
ここにも様々な受け取り方が考えられそうです。

ストップモーション

最後に、映像はストップモーションで終わります。
公開当時、ストップモーションになっている意味は「死」であると捉える意見が多かったようです。
死といっても、単に自殺という「物理的な死」なのか、「人間性の死」なのかで分かれそうな気がしますね。
私は大人になるということに対して悲観的なので人間性の死という捉え方も好きですが。
アントワーヌが海の中へ入って、自分の後ろにあった足跡が消え、そのまま足跡のつかない水辺にいるままストップモーションになることと併せて考えると、映像を止めることで過去でも未来でもない、「今」を強調しているように見えました。

逃げに逃げ続けた結果行き止まりにぶち当たり、もう逃げられない、自分と社会といよいよ向き合わねばならないのだと悟ったアントワーヌと目が合うことで、「お前ももう逃げられないんだぞ」「お前はどうするんだ」と言われているように感じさせ、それは「これから、今後どうするか」ではなく「今どうするのか」だぞと問い詰められている気がします。

この映画にある真理

大人は判ってくれないという映画は、さすがヌーヴェルヴァーグの代表作といわれるだけあって、世の中のリアルがたくさん詰まっていると思います。

大人の判ってなさ

この映画には判ってくれない大人が多く登場しますが、こういう大人は現代の、それも日本にもたくさんいますよね。
私は幸いにもアントワーヌ(=トリュフォー)のような家庭ではなかったですが、育児放棄という問題は子供にまつわる社会問題の定番になってしまっています。
劇中の国語の先生のように、自分の先入観で生徒のことを決めつけ、生徒たちの目にも明らかなレベルのえこひいきを平気でする教師は実際に経験があります。
小学3年生の時の担任教師がそうでした。
教員免許は持ってても教育に携わる資格はないだろみたいな教育者は、いつの時代のどの国にもいるんですね…

ジャン=ピエール・レオのインタビュー

やっぱり触れずにいられないのはアントワーヌが鑑別所で女医にいろいろな質問を受けるシーンです。
有名な話ですが、あのシーンはトリュフォーがアントワーヌ役のジャン=ピエール・レオに質問した映像に後から女医の声を吹き込んで制作されたものです。
そして、ジャン=ピエール・レオがする回答には脚本がありませんでした

基本的にジャン=ピエール・レオはアントワーヌ(=トリュフォー)としてエピソードを答えるので、どういった内容で答えるかはトリュフォーによる指示があったようですが、あのシーンでのアントワーヌの言葉遣いや表情、間といったものはジャン=ピエール・レオアドリブによるものです。

彼の受け答えが本当にリアルで、その中でも「嘘は時々つく、だって本当のことを言っても信じてもらえないから」という発言は非常に印象に残ります。

10年後が思いやられる

映画の序盤、先生が自分の言うことを一向に聞いていくれない生徒たちに腹を立てて、「お前らはそんな調子じゃ10年後が思いやられるな」とあきれるシーンがあります。

この映画がフランスで公開された1959年の9年後、1968年5月に「5月革命」が起こります。

5月革命とは、当時のド=ゴール政権の教育政策に不満を爆発させたパリの学生たちが主導となって、学生運動が労働者たちのゼネラルストライキへと発展し、結果ド=ゴール政権を退陣に追い込んだ反体制運動です。

わかってあげられない大人たちが見下していた子供たちは9年後、自分たちで考えて団結し、社会に変革をもたらしたのです。

引用元:https://www.magnumphotos.com/newsroom/politics/the-legacy-of-may-68/

おわりに

ここまで、正直過剰なくらい「大人」というものをこき下ろしてしまったので、さすがにフォローもしたいと思います。
フランソワ・トリュフォー監督は、1976年にトリュフォーの思春期という映画を撮ります。
(以下トリュフォーの思春期のネタバレをしています)

引用元:Yahoo!映画

この映画は、大人は判ってくれないに対するトリュフォーによるセルフアンサー的な部分があると思います。
この映画にも、主要人物たちが通うクラスの担任の先生が登場します。
大人は判ってくれないの教師と違い、こちらの先生は子供たちの気持ち、苦しみをある程度理解してくれる大人として登場します。
映画のクライマックスでは、この先生が生徒たちに対して感動的なスピーチをします。
この先生はその中でとても大事なことを言っているので紹介させてもらいます。
先生は大体こんなようなことを言います。(うろ覚えなので不正確です、すみません)

生きることは苦しい。それは大人より子供の方が苦しいんだ。
大人には子供よりも自由がある。今いる場所が不幸だと感じたら新しい場所に引っ越してやり直せる。
子供は今がどんなに不幸でも親を捨てたりできないだろう。子供にはそういった自由が与えられていないんだ。
そしてなにより大人には、選挙権がある。
本当にその気になれば、闘って社会を好きなように変えることができるんだ。
そんな時、今は苦しいかもしれないけど、子供時代に苦しんだ者ほど生命力に恵まれるから強いんだ、幸福にも恵まれるんだ。
君たちはこれから夏休みに入る。
いろんな人たちと出会い、様々な体験をするだろう。
そして将来は結婚して子供を作り、今度は君たちが親になる時がくる。
とにかく子供たちのことを愛するんだ。親が子供を愛せばきっと子供も親を愛してくれる。
人は愛がなければ生きていけない。人生とは愛し愛されることなんだ。

実際のスピーチはもっといい感じで熱弁してくれるので、この映画を見たことない方はぜひ見ていただきたいんですが、このスピーチで印象的なのは、選挙権についての言及をするところだと思います。
大人という存在が手にしている最も大きな自由とは選挙権、参政権なのです
民主主義国家においてもっとも強い権力、主権を持っているのは国民なので、主権を行使して政治に参加する権利を手にすることが最も大きな自由につながるというのは、至極真っ当な話ですよね。
我々大人は参政権という最も大きな自由を持っているのだから、この権利を行使して、人々が愛し愛される社会にしていこう、ということですね。

参考までに、日本で2021年10月31日に行われた衆議院選挙の最終投票率を載せておきます。

衆院選 最終投票率は戦後3番目に低い55.93%

引用元:NHK.JP

おわり

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